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~東洋医学はなぜ効くのか~
「鍼」や「灸」といった東洋医学は、現代では一部が健康保険適用となり、多くの人が施術を受けるようになりました。西洋医学では治らなかったり対応できなかったりする症状で東洋医学の施術を受ける人も増えています。ではなぜ東洋医学が効くのか、近年進む科学的な研究から、その効果のメカニズムを見ていきましょう。
「東洋医学」とは?
「東洋医学」と聞くと、鍼や灸、漢方などをイメージされる方が多いと思います。では「東洋医学」とは一体何なのでしょうか?実は東洋医学を地域や治療法で区切ることは難しく、定義も曖昧です。しかし、概念的に東洋医学と西洋医学を区別することは可能です。昔から、「東洋医学は人を診る」「西洋医学は病気を診る」と言われています。また、東洋医学のベースは「経験」や「事例」、西洋医学のベースは「論理」や「原則」だとも言われています。
解明が進む「東洋医学」
近年、世界中で東洋医学の調査研究が盛んに行われており、科学的な解明が進んでいます。
医学の科学的検証の際、重要なポイントとなるのが「再現性」(条件や手順が同じなら同じ事象が繰り返し確認できる)ですが、以前はツボの場所は中国や韓国、日本で微妙に異なっており、再現性に問題がありました。しかし1980年代からWHOで議論が進められ、2008年にはツボの部位の標準化が公表されました。
近年、東洋医学の臨床研究は右肩上がりで増加中で、東洋医学がなぜ効くのか、そのメカニズムの解明研究が進められています。
統合医療としての「東洋医学」
統合医療とは、西洋医学を基本として他の療法を組み合わせる医療のことを言います。鍼灸や漢方、サプリ、マッサージ、温熱療法、ヨガやアニマルセラピーなど色々ありますが、科学的見地が十分ではないものも含まれているため、臨床研究や正確な情報発信が求められています。その中でも東洋医学は科学的な解明が進む注目の療法です。
鍼のルーツ
鍼の起源は新石器時代に石でつくられた石鍼や、動物の骨でつくられた骨鍼だと考えられています。当時は傷をつけることで膿や血を出す治療だったと推測されています。その後銅や鉄が使われるようになり、紀元前200年頃には現在の鍼の原型とも呼べる形の鍼が登場しました。日本に鍼灸が伝わったのは6世紀頃とされており、飛鳥時代の701年に制定された大宝律令では、鍼が国の医療として定められました。
現在では通常使われる鍼の他、シールで短い鍼を貼り付ける円皮鍼、刺さずに突起で皮膚を刺激する接触鍼などもあります。また、刺した鍼に電気を通す鍼通電もよく用いられています。これは古代から行われていた電気刺激療法(電気ナマズやシビレエイの電気刺激を利用)が源流にあると考えられ、19世紀前半にフランスの医師によって西洋の電気治療と東洋の鍼治療を組み合わせた「鍼通電」が始まりました。
灸はヨモギの葉を原料としたモグサを燃やし、熱でツボを刺激する療法です。中国の文献によると、その歴史は鍼の登場よりも前だった可能性もあります。お灸は日本でも昔から庶民の間で広く使われてきました。
「ツボ」
ツボは正しくは「経穴」と言います。2008年にWHOが中心となり、361種のツボを標準経穴と制定しました。
ツボの役割は2つあります。
①反応点…心身に不調があるときに痛みなどが生じるツボ。診察に欠かせないポイント。
②治療点…症状を改善するために鍼やお灸を行うツボ。
ツボは人間だけでなく、動物でも確認されています。

「経絡」
経絡とは、臓器とツボを結ぶルートのことで、「気(体のエネルギー)」や「血(血液)」の流れる道筋のことを言います。経絡は「経脈(主要な流れ)」と「絡脈(経脈をつなげる流れ)」から成り立っています。ツボの多くは経絡上にあり、それぞれが特定の部位や臓器と結ばれていると考えられています。実は「神経」という言葉は、「神気(精神)」と「経脈」を合わせてつくられた造語です。

~東洋医学の鎮痛効果~
鍼灸治療を受ける際、最も多い症状は「痛み」ではないでしょうか。
実際、鍼灸治療には高い鎮痛効果が認められています。
ではなぜ東洋医学が痛みに効くのでしょうか。
「痛み」の目的とは?
不快な感覚の「痛み」ですが、生物にとっては生き残るために必要不可欠な感覚です。なぜなら痛み感覚は、危険から身を守るアラームのようなものだからです。痛みによって①無理な行動を抑制し、②治療や回復の行動をとり、③痛みの記憶によってリスクのある行動を避けることができます。生物が痛みの感覚を手に入れたのは4~5億年前と考えられています。皮膚や筋肉、内臓などの組織で生じた衝撃や炎症、病原体などからの刺激で痛み感覚が生じると、末梢の神経から脊髄を経由して脳に伝わります。
また、痛みには心理的なストレスも大きく関わっています。ストレスによって痛み感覚が生じたり、増加したりすることがわかっています。ストレスが脳や脊髄の「痛みを調節する機能」の異常をもたらし、痛みを感じやすくなります。これは「痛覚変調性疼痛」と呼ばれ、鍼灸も治療法のひとつです。
慢性疼痛と鍼灸
生存に必要不可欠な痛みですが、強過ぎたり慢性化したりすると日常生活に支障をきたし、逆に生存を脅かす事態になってしまいます。そこで古代の人々が編み出した治療手段のひとつが「鍼灸」なのです。
慢性疼痛とは、一般に3か月以上継続する痛みや通常の治療期間を超えて続く痛みを指します。原因が複雑なため薬物療法などの西洋医学だけでは解決が難しく、鍼灸治療の効果が期待されています。
鍼灸刺激の伝わり方
鍼灸刺激はどのように脳へと伝わっていくのでしょうか?
鍼やお灸でツボのある皮膚や筋肉に刺激が加わると、感覚受容器で刺激を感知します。皮膚には触覚や圧覚、温度覚などの受容器が存在しています。鍼灸の刺激を最も受けるのは、主に痛覚と温度覚のセンサーである「自由神経終末」です。鍼灸刺激は受容器で電気的信号(インパルス)に変換され、末梢神経→脊髄→中枢神経→脳へと伝わります。
鍼灸が作用する3つの場所
鍼灸は「末梢」「脊髄」「脳」の大きく3つの場所で作用して鎮痛効果を生み出すことがわかってきました。この3つの場所で起こる様々な作用が同時にもたらされ、それらが組み合わさることで効果を生み出すと考えられています。

鍼の鎮痛効果 ①末梢での効果
体の末梢(表面)で生じる4つの鎮痛効果
鍼やお灸の刺激を真っ先に受ける皮膚。そこでは4つの効果で痛みを抑制します。
①軸索反射
末梢での代表的な鎮痛メカニズムは、刺激したツボ周辺の末梢神経が反応して起こる「軸索反射」です。鍼を刺した皮膚が赤くなったことはありませんか?これは「フレア」と呼ばれ、軸索反射によって鍼を刺した周囲の血流が増加して起こる現象です。軸索とは、神経細胞の突起の中の長い部分。鍼刺激によって感覚受容器で生じたインパルスの一部が、この軸索にある小さな側枝に入り、皮膚表面近くの感覚神経の末端を刺激することで炎症が起こります。それにより神経伝達物質が放出され、血管の拡張などが起こり、血流が増加します。これが「軸索反射」です。鍼灸で「血流がよくなる」というのはこの一連のプロセスによるものです。
特に肩こりなど血流の悪化が関係する痛みに効果的です。筋肉が緊張して硬くなると、血管が収縮して血行不良になります。すると筋肉や血管などの細胞で酸欠が起こり、微細な組織破壊が生じます。炎症反応が起こって免疫細胞が集まり、発痛物質や発痛増強物質が放出されて「痛み」を感じます。そこに鍼灸による軸索反射が起こると、血流が増加して痛み物質が除去され、鎮痛効果が得られます。


鍼によるフレア(軸索反射)
②腱を利用した緊張緩和
ツボは腱の近くに存在するものも数多くあります。そのカギを握るのが、腱にある「腱紡錘(ゴルジ腱器官)」です。腱紡錘は筋肉の収縮・弛緩に伴って生じる張力のセンサーで、筋肉の収縮(緊張)が強くなると活性化します。鍼灸で腱付近のツボを刺激すると、筋肉の一時的な収縮が起こって腱紡錘の働きが活性化します。その刺激がインパルスに変換され、神経線維を通じて脊髄から運動神経に伝わり、運動神経の活動が抑制されて筋肉が弛緩します。すると血管が広がって血流がよくなり、痛み物質が除去されて鎮痛効果が得られます。
③体内で作られる鎮痛物質を活用
「オピオイド」という言葉を聞いたことはありますか?一般的には強力な鎮痛薬として知られるモルヒネなど、化学的に合成されたものを想像しますが、鍼灸に関係するのは「内因性オピオイド」と呼ばれるものになります。内因性=体内でつくられる鎮痛物質で、βエンドルフィンやエンケファリンなどが知られています。痛みは生存に欠かせませんが、度が過ぎると逆に生存を脅かしてしまいます。そのため、鎮痛物質も痛み物質同様に必要なのです。
近年の研究で、鍼を刺した局所で内因性オピオイドが産出されて痛みを和らげることがわかってきました。カギを握るのが免疫にかかわる白血球のうち、好中球・単球・リンパ球の3つです。この3つの免疫細胞には、内因性オピオイドペプチドというアミノ酸が結合した分子が蓄積されています。これらの細胞は炎症などの部位に集まってきますが、そこに鍼刺激などの新たなストレスが加わると、内包している内因性オピオイドを放出します。放出された内因性オピオイドは感覚神経末梢にあるオピオイド受容体と結合し、「神経の興奮を鎮める」という情報が伝えられ、痛みのインパルスの発生を抑制します。その結果、鎮痛効果が得られます。
④ATPを活用
ATP(アデノシン三リン酸)などのアデノシン含有化合物は生命のすべての細胞に存在し、生命活動に使われるエネルギー分子の役割を果たしています。そのため「生体のエネルギー通貨」とも呼ばれています。
ATPはストレス刺激などによって細胞外へ放出されることがあります。筋肉や脳、血小板や白血球など、体の様々な場所にアデノシン受容体があり、これらに作用して様々な生理反応を引き起こします。特にA1受容体は鎮痛に関わる生理作用があることがわかっています。鍼刺激によって壊れた細胞からアデノシン化合物が流出し、A1受容体と結合することで鎮痛効果を生み出します。
鍼の鎮痛効果 ②脊髄での効果
痛いところをさするのは効果的?
子どもの頃、「痛いの痛いの飛んでいけ」と言いながら痛い場所をさすった経験はありませんか?実は科学的にもその効果は証明されています。これには「ゲートコントロール理論」が関係しているのですが、鍼灸の鎮痛効果の一部も同じ理論が関係しています。
痛み刺激は感覚受容器でインパルス(痛みの信号)に変換され、感覚神経から脊髄、そして脳へと伝わります。「ゲートコントロール理論」が関係するのはこのうちの「脊髄」です。具体的には、脊髄の背中側にある「脊髄後角」という部分になります。ここには痛み信号を遮ったり、増幅したりする神経回路が存在し、痛みの情報を調節する重要な機能を持っています。

①「ゲートコントロール理論」で鎮痛
脊髄後角は、末梢神経から痛みや温度などの信号を受け取る神経細胞と、脳へ信号を送る神経細胞、そして脳からの信号を受け取る神経細胞が集まっています。それらの神経細胞が結びついてできた神経回路が、条件によって脳へ痛みのインパルスを伝えたり伝えなかったりします。その様子がまるで門(ゲート)を開閉するかのように痛み信号の伝達を調節しているところから「ゲートコントロール理論」と名付けられました。門番の役割をするのがSG細胞と呼ばれる神経細胞です。感覚刺激は刺激の種類によって伝わる繊維が異なります。体の痛みは、AδとC繊維という細くて伝達速度が遅い神経線維を通ってSG細胞の働きを抑制し、ゲートが開いて痛み信号が脳に伝わります。ところがこの時「圧迫」や「さする」などの刺激が加わると、そのインパルスはAβという太くて伝達速度の速い神経線維を通ってSG細胞の働きを活性化します。すると痛み伝達のゲートが閉じ、痛みを伝達しにくくなるのです。
通常門番は「痛みを伝える神経」が興奮すると痛み伝達用の門を開けますが、その時「触った事を伝える神経」も興奮するとその門を閉じる=痛みが和らぐ、というイメージです。鍼灸治療で使われる「接触鍼」は皮膚を圧迫したりさすったりする治療法で、Aβ繊維の働きを介して痛み伝達の門を閉じていると考えられます。
②脊髄後角の異常を改善
脊髄後角は痛みを調節しています。慢性痛の原因のひとつ「痛みの調節機能の異常」は脳だけでなく、この部分の異常が深く関与しています。門番であるSG細胞には実は多数の神経細胞が複雑に絡み合ったネットワークが存在しています。この部分に異常が生じると、痛みシグナルが増幅されて慢性疼痛の原因になると考えられています。鍼灸治療にはこの脊髄後角の神経回路の異常による痛みを改善する作用があることがわかってきました。詳しいメカニズムはまだ不明ですが、おそらく内因性オピオイドが関係していると考えられます。
鍼の鎮痛効果 ③脳での効果
痛みの脳への伝わり方
痛みシグナルは脊髄後角を経由して、2本のルートで脊髄を上がっていきます。そして脳の視床などに入り、脳の様々な部位へ伝達され、痛みの場所や種類、強さなどの情報が処理されて痛み感覚をもたらします。それと同時に対応する指示を出します。
鍼灸刺激も同じルートを通りますが、なかでも鍼灸にとって重要なのが、「下行性疼痛調節(抑制)系」と呼ばれるメカニズムです。鍼灸だけではなく、鎮痛に関するあらゆる治療法の基本となります。

下行性疼痛調節系とは?
痛みを脳から末梢に向けて調節していく系のことを「下行性疼痛調節系」と言います。中脳中心灰白質を起点としてスタートし、終点となる脊髄後角でノルアドレナリンを放出して痛みの伝達をブロックするノルアドレナリン系、同じくセロトニンを放出するセロトニン系の2つの系があります。
鍼灸刺激によるインパルスは抹消から脊髄後角を経て脳へと伝わり、中脳灰白質などで2つの系を駆動する内因性オピオイドが分泌されます。するとそれぞれの系が活性化され、脊髄後角でノルアドレナリンとセロトニンを分泌します。痛み信号を伝える神経細胞のシナプス間の伝達を阻害し、脊髄後角から脳への痛み信号を弱めることで鎮痛効果が得られます。
これらの系の起点となる中脳灰白質の神経活動が低下すると、下行性疼痛調節系が駆動しにくくなり、痛みを感じやすくなります。中脳灰白質は不安や恐怖を司る扁桃体とも強いつながりがあります。ストレスで扁桃体が活性化すると中脳灰白質の働きが抑制され、下行性疼痛調節系の鎮痛作用が弱まります。これは痛覚変調性疼痛や慢性疼痛にも関わります。鍼灸刺激は、低下した中脳灰白質の神経活動を活性化させることでこれらの痛みを改善すると考えられています。また、痛みの部位と離れた場所にツボがある理由もここにあります。下行性疼痛調節系は、刺激した部位の感覚神経がつながる脊髄後角だけでなく、脳につながるすべての脊髄後角に入る痛みに作用するからです。
鍼通電の周波数による効果の違い
内因性オピオイドは、鍼通電の電流の周波数の違いによって異なる種類が分泌されることがわかっています。
1~9ヘルツの低い周波ではβエンドルフィンやエンケファリンが分泌され、特に下行性疼痛調節系を活性化させます。効果が得られるまでに時間がかかりますが、鎮痛効果は持続し、体全体の痛みが緩和されます。
50~200ヘルツではダイノルフィンが分泌されます。鎮痛効果に即効性がありますが、持続はしません。
視床下部と交感神経を介した鎮痛
ストレスにより引き起こされる痛みには、自律神経のひとつである交感神経が関与しています。自律神経の司令塔は脳の「視床下部」です。交感神経は興奮の刺激を体のさまざまな部位に伝える役割を持っています。ストレスで交感神経が興奮すると、例えば消化機能が低下して胃腸の調子が悪くなります。するとさらにストレスが増え、ますます不調が増えてしまいます。こうした状態が重なるとますます交感神経が興奮して筋肉が緊張し、血流が悪くなって痛みが増幅していきます。ケガや病気による痛みでも同様に起こります。はじめの痛みがきっかけとなり痛みが増強していくことを「痛みの悪循環」と言います。鍼灸刺激が脳の視床下部に伝わり交感神経の働きが低下すると、興奮物質が減少し、血管が拡張して痛み物質が排除されます。このメカニズムは「交感神経ー副腎髄質系」と呼ばれています。
様々なメカニズムが重なり合う効果
痛みだけではない効果
ここまで末梢・脊髄・脳での鍼灸による鎮痛効果のメカニズムを見てきましたが、実際にはさまざまなメカニズムが重なり合って効果をもたらしていると考えられています。また、痛みだけでなく、人体のあらゆる生理メカニズムにも作用して心や身体を調節することがわかってきています。

~鍼灸の最新科学~
鍼灸は痛みだけでなく、脳活動やホルモン分泌、自律神経、免疫など、さまざまな生理メカニズムに作用してその機能を調節することがわかってきました。昔から鍼灸が有効とされてきた冷えや胃腸の調整、ストレスなどに効くメカニズムの解明が進んでいます。
①「脳」の神経伝達物質と鍼灸
鍼灸の脳への影響
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)によって鍼灸刺激の脳への影響を調べることができます。
鍼灸刺激によって活性化するのは大脳の一時体性感覚野(触覚や痛み、温度などの感覚情報を処理)、運動野(体を動かす信号の源)、前帯状皮質(血圧、心拍の調節や情動などに関与)、島皮質(痛みや情動に関係)などの領域です。
反対に活動が低下するのが、内側前頭前皮質(感情などのコントロールに関係)、扁桃体(恐怖や不安などの情動反応を処理)、海馬などです。これらの領域の活動が低下すると、不安や恐怖、痛みなどの感情が和らぎます。鍼灸治療のリラックス効果とも関係していると考えられます。

真逆の作用が起こることも
鍼灸治療によりリラックスしたり元気が出る原因のひとつが、脳内で分泌される「ドーパミン」です。快楽物質とも呼ばれ、意欲を生み出したり幸せを感じる際に重要な役割を果たしています。また、下行性疼痛調節系にも関与しています。
しかし多すぎると依存症になります。例えばタバコのニコチンはドーパミンを過剰に分泌させ、多幸感を生じさせます。これが繰り返されると依存症に。こうした依存症の治療にも鍼灸が期待されています。
しかし実は鍼灸は、このドーパミンの過剰な分泌を抑えるという真逆の作用も持ち合わせています。
同じような鍼灸刺激でも、ドーパミンの分泌を促進したり抑制したりと真逆の作用を生み出すのはなぜなのでしょうか?
その理由のひとつと考えられるのは、鍼灸刺激が作用するルートが心身の状態によって変化するというメカニズムです。動物による実験で、ドーパミンが過剰に分泌されているときと、ドーパミンが少ない状態のときでは、鍼灸刺激のインパルスは異なる経路で異なる作用(過剰な場合は分泌抑制、少ない場合は分泌促進)を起こすことがわかりました。同じ刺激でも病気や症状による神経回路の違いによって、インパルスの経路や神経伝達物質の量などが変わり、正常な神経活動の状態へ戻す作用が生じていると推測されています。東洋医学の特徴である「中庸」、つまりバランスを整える仕組みのひとつと考えられます。
うつ病への鍼灸治療
うつ病では脳内の「セロトニン」の分泌量が少なくなります。治療は主にセロトニンを増やす薬剤を使用します。下行性疼痛調節系で述べた通り、鍼灸刺激はセロトニンの分泌を促します。
イギリスでの研究で、750人のうつ病患者を①通常ケア+鍼治療、②通常ケア+カウンセリング、③通常ケアのみの3つのグループにわけ、週1回最大12回の治療を行いました。その結果、3か月後の評価は①の改善度が最も高く、また、改善の持続効果も高かったことがわかりました。日本やアメリカ、中国などでも同様の臨床試験が行われています。
うつ病患者のうち3~4割は抗うつ薬だけでは改善が見られないため、鍼灸治療は選択肢のひとつとして効果が期待されています。
鍼灸刺激と幸せホルモン
近年「幸せホルモン」として広く知られるようになった「オキシトシン」。ストレスや不安の軽減、共感や信頼感を高める、鎮痛にも関与するなど、神経系や免疫系に幅広く関わっています。
鍼灸刺激は視床下部に達してオキシトシンを分泌する神経の活動を高めます。つねるなどの痛みをともなう刺激より、なでるような優しい刺激の方が分泌量が増えることがわかっています。そのため、オキシトシンを増やすにはローラー鍼や接触鍼などの優しい刺激がおすすめです。マッサージなどでも同様の効果があります。触れる行為は自分でもOKですので、自分でやさしくツボを刺激しても効果があります。
HPA軸とストレスホルモン
ストレスを受けるとその情報は脳の視床下部へと伝わり、「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が放出されます。すると下垂体から「副腎皮質刺激ホルモン」が放出され、副腎皮質から「副腎皮質ホルモン」が分泌されます。この副腎皮質ホルモンは「ストレスホルモン」。この一連の流れは「視床下部ー下垂体ー副腎皮質系(HPA軸)」と呼ばれ、ストレスから身体を守る本能的なメカニズムです。副腎皮質ホルモンは全身に作用し、血圧や血糖値を上げて脳や筋肉の活動を活発にし、胃酸の分泌を促して食べ物を消化する働きを高めるなどします。こうして運動や代謝の機能を高めてストレスに対抗しようとします。
慢性的なストレスでHPA軸の活性化が続くと、体には悪影響(うつ病や免疫異常、高い血糖値で糖尿病や肥満のリスクが増えるなど)を及ぼします。鍼灸にはHPA軸の過剰な活動を和らげる作用があることが、動物による実験で多数報告されています。
②「自律神経」と鍼灸
自律神経とは?
自律神経は無意識的に働いている呼吸や体温、内臓などの働きをコントロールしており、生命活動の維持に重要な働きをしています。
活動するときに働く「交感神経」、リラックスするときに働く「副交感神経」から成り、大きな2つの特徴を持っています。まずひとつめの特徴が「二重支配」。ひとつの臓器に交感神経と副交感神経の両方がつながっていて、2つの神経によって調節されています(汗腺や立毛筋など、交感神経だけの支配を受ける例外もあります)。ふたつめの特徴が「拮抗支配」。アクセルの役割とブレーキの役割、反対の役割を持っています。

鍼灸と自律神経の関係を調べた日本人研究者
鍼灸と自律神経の関係について、日本で初めて言及したのは明治時代に富岡製糸場の医師を務めた大久保適斎(1840~1911)です。東洋医学と西洋医学とを駆使して医療を行った人物で、その著書の中で鍼刺激は運動神経・感覚神経・交感神経に作用するとし、内臓機能は交感神経を介して調節されると示しています。
その後生理学者の佐藤昭夫(1934~2006)とドイツのシュミットが、ラットを使った実験で、皮膚や筋肉への刺激は感覚神経に入り大脳へと伝わるが、それだけでなく手前にある脊髄や脳幹で折り返して交感神経や副交感神経へ伝わるというメカニズムを発見しました。大脳を介さない無意識の反応は「反射」と呼ばれ、この経路によって内蔵の働きが調節されています。これを「体性ー内臓反射」と名付けました。現在では「体性ー自律神経反射」と呼ばれています。
鍼灸と「体性ー自律神経反射」
お腹などの体幹部の皮膚に受けた刺激は、感覚神経を通り脊髄後角へと入り、脊髄側角から交感神経を通って臓器へと伝わります。手足に受けた刺激は、感覚神経を通り脊髄を上がって脳幹へと伝わり、副交感神経を通って臓器へと伝わります。
つまり、鍼灸刺激の場所によって交感神経あるいは副交感神経の働きが高まるという、異なる作用がもたらされるのです。これは刺激する場所によって、反射経路の中枢=折り返し地点が異なるために生じます。
例えば手の「合谷」というツボは便秘の改善に効果があります。合谷=手の皮膚の刺激は脳幹へと伝わり、副交感神経の活動を高めて胃腸の働きを促進します。その結果、便秘の改善につながります。一方胃腸の調子を整えるツボ「中脘」はおへその上にあります。体幹の刺激は脊髄に伝わりそこで反射が起こり、交感神経の働きを高めて胃の活動を抑制します。その結果、胃酸の分泌が抑えられて胸やけや胃酸過多などの症状の改善につながります。
鍼灸治療の多くはこの「体性ー自律神経反射」を利用し、血流関係や胃腸症状、泌尿器トラブルなどを改善すると考えられます。
やさしい刺激でも効果はある?
「体性ー自律神経反射」は刺激を認知しなくても起こります。刺激が強い(痛い)施術でなくとも、感じない程度の優しい刺激でも効果が得られます。現代の鍼灸治療ではほとんど痛みや刺激を感じませんが、それでも効果が得られる裏付けとなっています。
鍼灸とストレス系「SAM軸」
HPA軸のほかに、「交感神経ー副腎髄質系(SAM軸)」と呼ばれるストレス系があります。視床下部に入ったストレス刺激が「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」の分泌を促し、交感神経の活性化を経て副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。それにより血糖値や血圧が上がり、ストレスに対抗しようとします。
鍼灸刺激では、このSAM軸をときに活性化・ときに抑制という正反対の作用をもたらします。詳しいメカニズムは不明ですが、刺激の強さが関係していると考えられています。体の状態を一定に保つ恒常性(ホメオスタシス)の維持・回復に鍼灸は有効といえます。
③「免疫」と鍼灸
お灸と免疫の研究
古くから民間療法として行われてきたお灸。松尾芭蕉も旅の準備に「足三里」にお灸をしていました。
20世紀に入るとお灸と免疫細胞の関係に注目した研究が始まりました。なかでも精力的に研究を行ったのが、原志免太郎(1882~1991)です。
現代の免疫学では、免疫機能は大きく2段階あると考えられています。生まれつき体に備わり最初に反応する「自然免疫」、次いで異物に応じた攻撃方法をとる後天的な「獲得免疫」です。自然免疫では好中球やNK細胞、マクロファージなどが活躍し、獲得免疫ではT細胞やB細胞といったリンパ球が活躍します。原志免太郎の研究では、灸によって時間の経過とともに増える免疫細胞が変わることを確認しており、免疫細胞の活動の流れを裏付ける結果となっています。
解明が進む鍼灸と免疫の関係
20世紀後半以降、免疫システムの解明が進んできました。それに伴い鍼灸刺激の免疫への作用もわかってきました。東洋医学でいう「養生」は、日ごろの生活習慣に気を配り病気にならないようにすることです。これは免疫力を整えることにつながります。こういった東洋医学の根本的な考え方についても、解明や理解が進んでいます。
鍼灸は免疫を「調節」する
免疫システムが関わる鍼灸治療の対象は関節リウマチ、炎症性腸疾患、慢性痛などです。これらに共通しているのは「慢性炎症」。通常、炎症は外傷や細菌、ウイルス相手などで生じます。しかし慢性化するとさまざまな病気を引き起こします。この場合は炎症反応を抑制する必要があります。
一方で本来の役割では、病原体の感染を防いだり患部を治癒させるために、炎症反応を促進させる必要がある場合もあります。
鍼灸治療では免疫細胞の働きを調節し、炎症反応をコントロールすることで症状の改善や予防の効果が得られます。
鍼灸と自然免疫
東洋医学で重視する「自然治癒力」にも大きく関係する「自然免疫」。あらゆる動物が兼ね備えている生体防御システムです。鍼灸治療に大きく関わるのは「肥満細胞」という免疫細胞(別名マスト細胞)です。細胞の中に炎症を引き起こす物質を多く貯蔵しており、細胞自体が大きくなるためこの名前がついています(実際の肥満には関係ありません)。
肥満細胞が鍼灸刺激を受けると炎症性物質を放出し、細胞と細胞の隙間が広がり、ほかの免疫細胞が炎症部分に出ていきやすくなります。白血球を呼び寄せる物質も産出され、炎症反応が起きやすくなります。
逆に炎症反応を抑える場合は、マクロファージという免疫細胞に作用します。マクロファージは、肥満細胞と同じように炎症性物質を産出しかつ病原体を排除する状態(M1)と、炎症を抑えて細胞分裂や修復を調節する状態(M2)という真逆の働きを併せ持っています。これらの状態を行き来することで免疫状態を調節しています。鍼灸刺激では、体性ー自律神経反射を介し、マクロファージをM2の状態に変化させることが確認されています。これにより炎症を抑える作用をもたらしていると考えられます。
鍼灸とヘルパーT細胞
獲得免疫は病原体などを記憶することで次に遭遇した時に効果的に排除します。その司令塔が「ヘルパーT細胞」です。病原体の種類に応じて異なる炎症反応を引き起こす3種類のエフェクターT細胞に分化します。
免疫系が過剰に活性化し続けたり、無害な物質に反応すると、関節リウマチや炎症性腸疾患などの自己免疫疾患、花粉症などのアレルギー疾患を引き起こします。そこで、ヘルパーT細胞の中にはエフェクターT細胞を抑制して免疫反応を適切に制御する「制御性T細胞」が存在しています。ホメオスタシスにも重要で、この細胞を増強できれば自己免疫疾患やアレルギー疾患の治療に結びつくと考えられています。
鍼灸刺激はエフェクターT細胞と制御性T細胞の数の不均衡を是正したり、制御性T細胞の働きを活性化させるなどの作用を持つことがわかってきています。

様々な種類の免疫細胞たち
鍼灸が免疫に作用するメカニズム
①局所での免疫作用
鍼灸刺激で細胞が傷つくと、自然免疫のマクロファージや好中球、肥満細胞、NK細胞が集まり炎症反応が起こります。また、圧迫やお灸の熱によって軸索反射が起こり、免疫細胞が働き始めます。この2つのメカニズムによって局所での免疫反応が起こります。あえて体に傷をつけることで免疫反応を駆動させ、治療を促進しているのです。
②HPA軸の働きを調節
ストレス刺激は視床下部を経由して最終的に副腎皮質に到達し、副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)を分泌させます。このホルモンによって、免疫機能は抑制・活性化の両方の現象が起こります。
抑制の場合、副腎皮質ホルモンはNK細胞、肥満細胞などの働きを抑制します。つまり過剰な副腎皮質ホルモンは免疫機能を低下させます。
活性化の場合、過剰な副腎皮質ホルモンはエフェクターT細胞のバランスを狂わせ、炎症作用を促進させるケースがあります。特にアレルギー疾患を悪化させる可能性があります。
HPA軸と免疫機能の関係はまだ詳しくはわかっていないことも多いのですが、いずれにしてもHPA軸の過剰な活動は免疫機能の働きに悪影響を及ぼします。前に述べたように、鍼灸刺激はHPA軸の過剰な活動を抑制するため、免疫機能の正常化をもたらすと考えられます。
③SAM軸の働きを調節
SAM軸によって分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンも、NK細胞をはじめとする免疫細胞の働きを低下させます。ストレスでSAM軸の活動が慢性化すると免疫機能が低下します。前に述べたように、優しい鍼灸刺激では交感神経の活動が抑制されて2つのホルモンの分泌が減少するため、鍼灸刺激の種類によって免疫機能を調節できる可能性があります。
④脾臓と炎症反射
炎症反射とは、自律神経のひとつである迷走神経と脾臓を介して起こる抗炎症作用のことです。迷走神経は脳から腹部まで達する長大な神経で、心臓や血管、内臓などを支配しています。脾臓は左脇腹にあり、獲得免疫の主体であるT細胞やB細胞が集まっています。臓器や血管の免疫情報は迷走神経を通り脳幹へ到達し、反射的に迷走神経を通って脾臓に送られます。炎症反応が過剰な場合、脾臓に送られたシグナルによってノルアドレナリンが分泌され、T細胞が反応してアセチルコリンを分泌します。それによりマクロファージの活動を低下させ、炎症反応が抑制されます。この一連のメカニズムを「炎症反射」といいます。「合谷」や耳への鍼灸刺激によって、脾臓でのこの作用を増強することが確認されています。
⑤足三里ー迷走神経ー副腎髄質
足三里のツボに入ったインパルスは、坐骨神経を通って脊髄経由で脳へと伝わります。そして脳幹を経て迷走神経が興奮し、副腎髄質を活性化してアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンを分泌させます。ドーパミンは免疫にも関わっており、免疫細胞の活動を抑制して炎症反応を抑えます。

④ツボの科学的解明
ツボとはなにか?なぜその場所にあるのか?科学的な解明はまだですが、生理学的・解剖学的な特徴が徐々に明らかになってきています。
ツボと「圧痛点」
ツボの特徴のひとつが、圧痛点(指で押すと痛く感じる部分)であること。患部の周りのツボを押した時の痛みが強くなるのは、筋肉がこる=硬くなり、血流が低下して老廃物が蓄積したり炎症が生じたりするせいです。この圧痛点は、トリガーポイント(痛みの引き金になる点)とも共通点が多くあります。圧痛点が生じやすい場所=ツボの位置と類似しているのです。すべてのツボではありませんが、体の姿勢や動作などで物理的な負担がかかりやすいポイント=圧痛点=ツボと考えられます。
ツボと関連痛との関係
関連痛とは、原因となる場所だけでなく、隣接する場所や離れた場所にも生じる痛みのことを言います。例えば狭心症では左肩も痛くなります。心臓からの痛みを伝える感覚神経がつながる脊髄後角には、左腕(左肩)からの感覚神経もつながっています。そのため痛み信号が左腕の感覚神経にも伝播してしまい、関連痛が生じると考えられます。さらにその際、別な感覚神経の末端でも神経性の炎症が起こります。このメカニズムがツボの正体にも関係しているかもしれません。
世界初、ツボの「解剖学的な証拠」
2021年、「足三里」の解剖学的な構造研究が発表されました。これは世界で初めて精緻に示されたツボの解剖学的な証拠です。足三里は前にご紹介した通り、「足三里ー迷走神経ー副腎髄質」を介して抗炎症作用をもたらすことがわかっています。この足三里には抗炎症作用を持つ独特の神経構造があり、ツボの周辺や他のツボとも異なっていることが判明しました。
ツボのタイプや構造など、今後の研究が期待されています。
⑤経絡の科学的解明
ツボとツボを結び、「気」や「血」の流れる経絡。解剖学的にはその存在は明らかになっていませんが、その最新のとらえ方を見ていきましょう。
経絡=筋膜経線?
「ファシア」という言葉があります。元来は筋肉を包む筋膜を指していましたが、近年では内臓を包む膜や靭帯、腱も含むようになりました。組織を覆い守る、臓器と臓器をつなぐ、体内物質の通り道などの役割があります。
その役割のひとつ「筋膜のつながり」が経絡と似ている、とする説が出てきました。これは「筋膜経線(アナトミー・トレイン)」と呼ばれています。体の一部に負担がかかった時に、その張力を感じ合い影響を受ける筋膜のつながりのことを言い、全身で12本のラインがあるとされています。この筋膜経線の多くが経絡と類似しているのです。

進む「経絡」の科学的解明
2021年に発表された中国の研究では、ツボに蛍光色素を注入し、色素の移動ルートや時間を観察しました。その結果、経絡は「ファシアの中を流れる間質液の通り道」だとする仮説があげられました 。間質=細胞と細胞の間の隙間を言い、間質液=その隙間にある血液やリンパ液以外の体液のことを指します。間質液やファシアは近年ようやく詳しい解明が始まったばかりなので、その解明に伴って経絡の謎も解明されていくかもしれません。
⑥将来の鍼灸の可能性
科学的解明が進んできた鍼灸。将来、どんな可能性を秘めているのでしょうか。
鍼灸と再生医療
再生医療においては、鍼灸では特に鍼通電を用いた神経や血管の再生についての研究が進んでいます。
伝統的に行われてきた脳梗塞後のリハビリの鍼灸治療では、運動機能の回復や神経のしびれなどの改善が多数報告されています。中枢神経系(脳や脊髄)の損傷部分は元に戻りませんが、脳の一部では神経細胞が新生され、損傷した神経を再生することがわかっています。鍼灸でそのメカニズムが活性化する可能性があります。
また、末梢神経でも鍼通電により神経の再生が起こり、症状が回復することがわかってきました。鍼通電を行うと神経細胞の維持や活性化に重要な物質の合成・分泌が促進されます。認知症の改善や血管新生、骨折にも有用だと考えられます。もともと骨折治療には電気治療が行われており、鍼通電治療は効率的に骨形成を促す治療法として用いられています。
鍼灸と将来の医療
電気や磁気、超音波などを使って神経を刺激し治療を行う方法を、「ニューロモデュレーション」と言います。鍼治療もそのひとつです。神経系の病気だけでなく、近年、内臓疾患や全身の炎症性疾患などにも使われるようなってきました。また、近年では鍼を用いず電極をツボに貼り付ける経皮的経穴電気刺激(TEAS)も導入が進んでいます。施術も簡易なため、今後増えていく可能性があります。

鍼通電(パルス)療法
難病治療・予防医療へのtaVNS
taVNSとは、先ほどのTEASのひとつで、「経皮的耳介迷走神経刺激」のことを言います。迷走神経を介して免疫メカニズムである炎症反射を狙った治療法です。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患治療に期待されています。
また、病気予防にも応用できる可能性があります。自己免疫疾患のほか、糖尿病やアトピー性皮膚炎、認知症、血管障害なども加えた広義の「慢性炎症疾患」は、病気を発症する前から臓器に微小な炎症が発生し、それが拡散・拡大していくことで病気を発症します。こうした炎症をいちはやく察知し、taVNSなどで炎症を抑制して病気を未然に防ぐ研究も進められています。これは東洋医学でいう「治未病(病気になる前に養生をして健康を維持する)」に通じています。伝統的な東洋医学の健康への向き合い方が、現代の最新科学を取り入れて実現されようとしています。

~「効く」を科学する~
「効く」と判定するにはどのような科学的根拠が必要なのでしょうか。
また、注意点なども見ていきましょう。
「効く」とはどうい うことか
「効く」と判定するには?
医療業界に「三た論法」という言葉があります。これは「使った、治った、だから効いた」という、末尾が3つの「た」で終わる文で、この考え方は誤りであることが共通認識となっています。例「鍼を打った、頭痛が良くなった、だから鍼は効いた」これが三た論法です。実際は他の要因が影響していたのではないか、何もしなくても治ったのではないか、など色々な可能性を考える必要があります。
科学的根拠には経験談や権威者の意見、実験室の研究、症例報告、コホート研究、ランダム化比較試験などさまざまな種類がありますが、偏りや偶然の入り込む余地によって正確性が変わってきます。例えば「経験談」の場合、他の治療も併用していたのかもしれず、たまたま鍼を打ったタイミングと頭痛が治ったタイミングが一緒だったという事実しかありません。例えば「権威者の意見」(鍼治療で多数の患者が改善されたとする鍼灸師の意見)では、そもそも効果がないと感じた患者はすぐに鍼治療に来なくなったのかもしれません。例えば「コホート研究」(鍼灸に通い始めた患者を対象にした研究)では、もともと鍼灸に興味がある人は主観的評価はポジティブになりがちです。また、鍼以外にも自分でストレッチや筋トレをしていて、それが影響した可能性もあります。
そのため、医学的に「効く」と判定するには「ランダム化比較試験」で有効性が証明されていることが必要となります。
ランダム化比較試験とは?
ランダム化比較試験とは、臨床試験に参加する対象者をランダムにわけて、それぞれに評価したい治療法と別の治療法を行って比較する方法を言います。対象者も医師も振り分けられるグループを選ぶことはできないため、公平に比較することができます。この方法は医学であろうと鍼灸であろうと同じで、世界共通の方法です。ただし、ランダム化比較試験で有効性が証明され「効く」と言えたとしても、全員が治ったり改善するわけではありません。これを「医療の不確実性」と言います。あくまで臨床試験の結果は「全員に効く」のではなく、「どれくらいの割合の人にどれくらい効くのか」という点になります。
2000年頃から鍼灸のランダム化比較試験の報告件数は右肩上がりで、これはつまり「効く」ことが証明された鍼灸が増えてきていると言えます。
基礎研究も重要
ランダム化比較試験はもちろん重要ですが、動物などを用いた基礎研究もまた重要です。基礎研究は土台となる部分であり、メカニズムの解明にも重要です。東洋医学はもともと経験の積み重ねであり、そのメカニズムは解明されないまま利用されてきました。現代では西洋医学が主流であり、東洋医学においてもメカニズムの解明が重要視されるようになってきました。
基礎研究では「なぜ、どのように効くのか」を探り、臨床研究では「どれくらい効くのか」を探っていくため、両方とも必要な研究なのです。
プラセボ効果
プラセボ効果の影響
プラセボ効果とは、実際には有効ではない薬や処置を受けた際、期待される効果を示してしまう現象を言います。この影響を踏まえて治療の効果を適切に評価するために「二重盲検法」などが用いられています。これは患者と治療者の両方が、実際の治療群なのかプラセボ群なのかわからないようにして調査する方法です。
鍼治療では、プラセボ群には偽鍼を用いたり、経穴の場所を本来の場所からずらしたりして治療を行います。ただしその場合でも生理学的反応が起こってしまうことがあり、プラセボ効果を見極めるのは難しいと言えます。ですから鍼治療ではプラセボ効果が含まれている可能性があることを念頭におく必要があります。
プラセボの問題点
臨床試験において、すでに効果が証明されている薬がある場合、それを使わずに試験を行うことは原則として倫理的に認められません。つまりプラセボはいつでも使用できるわけではなく、特定の条件のときにのみ容認されます。
鍼灸治療の場合、「西洋薬」と「鍼灸」を直接比較して西洋薬と同等あるいは上回る効果が認められれば、必ずしもプラセボを用いた臨床試験は必要ないかもしれません。あるいは西洋医学にもとづく治療を行いつつ、上乗せ効果としての鍼灸治療を検証するのであれば、プラセボの使用は許容されるかもしれません。
鍼灸の注意点
副作用
鍼灸治療で起こり得る副作用は、全身性では疲労感・倦怠感、眠気、一時的な悪化、めまい・ふらつき、気分不良、頭痛などです。局所性では微量の出血、刺鍼時痛、皮下出血、施術後の刺鍼部痛、皮下血腫などになります。灸では水泡、熱傷などが起こる場合があります。全身性の副作用の多くは一時的なもので、加えた刺激に体が過剰に反応して起こると考えられています。また、鍼灸治療を行って痛かった場所の症状が改善してくると、今まで痛くなかった場所が痛み出したりすることがあります。血液をサラサラにする薬を飲んでいる人や血小板が少ない人などは、皮下出血や皮下血腫が起こりやすくなります。
健康保険で鍼灸を受けるには
鍼灸治療の一部は健康保険で受けることができます。神経痛、リウマチ、頚腕症候群、五十肩、腰痛症、頚椎捻挫後遺症の6つで、医師の同意書が必要となります。また、病院と鍼灸で同時に健康保険を使うことはできない点に注意してください。

~コリとるの鍼灸治療~
コリとるでは初めての方でも不安なく施術を受けていただけるよう、丁寧な問診を行います。
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鍼灸治療はコリとるで
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