
鍼灸はなぜ効くの?
「鍼」や「灸」といった東洋医学は、現代では一部が健康保険適用となり、多くの人が施術を受けるようになりました。西洋医学では治らなかったり対応できなかったりする症状で東洋医学の施術を受ける人も増えています。ではなぜ効くのか、近年進む科学的な研究から、その効果のメカニズムを紹介します。
「東洋医学」とは?
「東洋医学」と聞くと、鍼や灸、漢方などをイメージされる方が多いと思います。では「東洋医学」とは一体何なのでしょうか?実は東洋医学を地域や治療法で区切ることは難しく、定義も曖昧です。しかし、概念的に東洋医学と西洋医学を区別することは可能です。昔から、「東洋医学は人を診る」「西洋医学は病気を診る」と言われています。また、東洋医学のベースは「経験」や「事例」、西洋医学のベースは「論理」や「原則」だとも言われています。
解明が進む「東洋医学」
近年、世界中で東洋医学の調査研究が盛んに行われており、科学的な解明が進んでいます。
医学の科学的検証の際、重要なポイントとなるのが「再現性」(条件や手順が同じなら同じ事象が繰り返し確認できる)ですが、以前はツボの場所は中国や韓国、日本で微妙に異なっており、再現性に問題がありました。しかし1980年代からWHOで議論が進められ、2008年にはツボの部位の標準化が公表されました。
近年、東洋医学の臨床研究は右肩上がりで増加中で、東洋医学がなぜ効くのか、そのメカニズムの解明研究が進められています。
統合医療としての「東洋医学」
統合医療とは、西洋医学を基本として他の療法を組み合わせる医療のことを言います。鍼灸や漢方、サプリ、マッサージ、温熱療法、ヨガやアニマルセラピーなど色々ありますが、科学的見地が十分ではないものも含まれているため、臨床研究や正確な情報発信が求められています。その中でも東洋医学は科学的な解明が進む注目の療法です。
鍼のルーツ
鍼の起源は新石器時代に石でつくられた石鍼や、動物の骨でつくられた骨鍼だと考えられています。当時は傷をつけることで膿や血を出す治療だったと推測されています。その後銅や鉄が使われるようになり、紀元前200年頃には現在の鍼の原型とも呼べる形の鍼が登場しました。日本に鍼灸が伝わったのは6世紀頃とされており、飛鳥時代の701年に制定された大宝律令では、鍼が国の医療として定められました。
現在では通常使われる鍼の他、シールで短い鍼を貼り付ける円皮鍼、刺さずに突起で皮膚を刺激する接触鍼などもあります。また、刺した鍼に電気を通す鍼通電もよく用いられています。これは古代から行われていた電気刺激療法(電気ナマズやシビレエイの電気刺激を利用)が源流にあると考えられ、19世紀前半にフランスの医師によって西洋の電気治療と東洋の鍼治療を組み合わせた「鍼通電」が始まりました。
灸はヨモギの葉を原料としたモグサを燃やし、熱でツボを刺激する療法です。中国の文献によると、その歴史は鍼の登場よりも前だった可能性もあります。お灸は日本でも昔から庶民の間で広く使われてきました。
「ツボ」
ツボは正しくは「経穴」と言います。2008年にWHOが中心となり、361種のツボを標準経穴と制定しました。
ツボの役割は2つあります。
①反応点…心身に不調があるときに痛みなどが生じるツボ。診察に欠かせないポイント。
②治療点…症状を改善するために鍼やお灸を行うツボ。
ツボは人間だけでなく、動物でも確認されています。

「経絡」
経絡とは、臓器とツボを結ぶルートのことで、「気(体のエネルギー)」や「血(血液)」の流れる道筋のことを言います。経絡は「経脈(主要な流れ)」と「絡脈(経脈をつなげる流れ)」から成り立っています。ツボの多くは経絡上にあり、それぞれが特定の部位や臓器と結ばれていると考えられています。実は「神経」という言葉は、「神気(精神)」と「経脈」を合わせてつくられた造語です。

~鍼灸の鎮痛効果~
鍼灸治療を受ける際、最も多い症状は「痛み」ではないでしょうか。
実際、鍼灸治療には高い鎮痛効果が認められています。
では、なぜ痛みに効くのでしょうか。
痛みの目的とは?
不快な感覚の「痛み」ですが、生物にとっては生き残るために必要不可欠な感覚です。なぜなら痛み感覚は、危険から身を守るアラームのようなものだからです。痛みによって①無理な行動を抑制し、②治療や回復の行動をとり、③痛みの記憶によってリスクのある行動を避けることができます。生物が痛みの感覚を手に入れたのは4~5億年前と考えられています。皮膚や筋肉、内臓などの組織で生じた衝撃や炎症、病原体などからの刺激で痛み感覚が生じると、末梢の神経から脊髄を経由して脳に伝わります。
また、痛みには心理的なストレスも大きく関わっています。ストレスによって痛み感覚が生じたり、増加したりすることがわかっています。ストレスが脳や脊髄の「痛みを調節する機能」の異常をもたらし、痛みを感じやすくなります。これは「痛覚変調性疼痛」と呼ばれ、鍼灸も治療法のひとつです。
慢性疼痛と鍼灸
生存に必要不可欠な痛みですが、強過ぎたり慢性化したりすると日常生活に支障をきたし、逆に生存を脅かす事態になってしまいます。そこで古代の人々が編み出した治療手段のひとつが「鍼灸」なのです。
慢性疼痛とは、一般に3か月以上継続する痛みや通常の治療期間を超えて続く痛みを指します。原因が複雑なため薬物療法などの西洋医学だけでは解決が難しく、鍼灸治療の効果が期待されています。
